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蝉時雨

 

君たち新入生が一人暮らし及び自炊生活を始めると必ず世話になるであろうものに「セミ餃子」があ
る。これは珉珉(みんみん)食品という冗談みたいな名前の会社が作っている冗談みたいな名前のチ
ルド餃子で、焼いてよし揚げてよし煮てよし結構美味しい上に10個入り68円とかいうこれまた冗談
みたいな値段で売られているために我々のなかには体のほとんどがセミ餃子で構成されているものも
居る。このセミ餃子に対する愛、そして夏場クソ暑い中で元気いっぱい位に鳴きまくる蝉に対する苛
立ちを想像して貰えば、実際の蝉餃子を作ってみようという企画が持ち上がるのも自然な流れであっ
てこうしてボヘミアンたちは半袖短パン虫取り網片手に下鴨神社糺ノ森へと駆け出して行ったのであ
る。結局10匹ほどの蝉が不幸にも捕まえられ、ビニール袋の中でもぞもぞと蠢いている。「翅と脚は
固そうだから取ろう」という誰かの一声で作業は始まった。翅は簡単に取れていくのだが脚は結構も
ぎ取るのに力がいる。蝉の爪が手に刺さってちょっと痛い。しかもたまに悲壮な叫びをあげている。
まもなく翅と脚がもぎ取られた哀れな姿の蝉ができた。なにかの蛹そっくりなのだが違うのはバルタ
ン星人そっくりの顔がついているところ、そして輪郭がぼやけるくらい高速で震えているところであ
る。「茶色のピンクローターみたいやな」と誰かが呟いていた。本当に頭が悪そうな発言だなと思っ
た。とりあえず油で揚げたあとに塩を振って味見してみる。見た目は完全に虫なので、腹の節が生々
しい。意を決して食べる。なにこれめっちゃ美味しい。さくさくとした食感とナッツを思わせる蝉肉
の風味が絶妙である。居酒屋で置いていたらとりあえず最初に頼むレベル。もう食材にしか見えない。
次に餃子の皮に包んでみると、これはもう完全に餃子。蝉餃子である。話し合った結果揚餃子にして
みたのだが、これは少し失敗だった。あまりにクリスピー。サクサク感しかない。失敗。いまいちオ
チがつかないのでこっそり買っておいたミールワームでも餃子を作ってみることにする。ちなみに
ミールワームとはケイヨーデイツーとかで売っている小鳥の餌用の小さな白い芋虫である。これを数
十匹まとめて餃子に包み、こちらは水餃子にしてみる。これも失敗であった。餃子の皮は茹でると中
のミールワームの姿が透ける。楳図かずお作品のような地獄絵図。味もミールワームは意外と皮が固
く味気なかった。最後に珉珉の本家本元セミ餃子を食べてみる。めっちゃ旨い。蝉食おうとか言い出
す奴は頭が腐ってるんじゃねえの。

文責:薛

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